06. 手の届かない場所へ行ってしまいそうで、とてもとても怖いのです。

(夏木くん←薫流ちゃん)

歩幅の差を引いても、亜紋がその気になれば、
前なら早歩きで、後ろならのんびりと私を迷子に出来る。
背中でも、無口な顔でも遠くから見ると、改めて気付く。
素通りしてしまうのが、当たり前な他人みたいで。
ものすごく、遠くに感じる。

「薫流。人混みが苦手なのわかるけど・・・」
「誤解されるようなことは、してないでしょう」
その通りだよ、と同意してから、困ったような声で告げた。
「でも、隣にいられると、周りの好奇心が痛いんだよ」

見失ったら、本気を出しても追いつけない気がして、怖くなる。
――おいていかないで。
口が裂けてもいえない、子どもじみた想い。
――他人と感じさせないで。いなくならないで。

苦い顔をされるのを承知の上でも、
せめて、手を伸ばせば、腕をつかめる位置にいたい。
恐怖を捨てきれない自分を安心させるために。

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written by ナルセ